Quantcast
Channel: 資本主義の腐海のたび日記:シンガポールのとある日本人ヘッジファンド運用者のつぶやき
Viewing all articles
Browse latest Browse all 30

○アナリストJobの変遷その7:ポスト中小型株バブル・ポストリーマンショック~アベノミクス後のアナリスト・運用者

$
0
0
題名の件である。
過去6回に渡ってアナリストJobの変遷を書いてきた。

(過去6回については以下を参照)





しかし、上記については90s末~2000年頃のPL/BS/CFを回すフルのDCF Valuationが作れるだけで差別化要因として飯が食えた頃から始まり、ライブドアショック、村上ファンドの村上代表逮捕、その後の中小型株特化ヘッジファンドやアクティビストファンドの退潮(=2006年頃)と言った辺りで話は止まっており、その後、特にリーマンショック後以降にヘッジファンド業界・アナリスト稼業がどうなったのか、今現在どういった様相を呈しているのかと言った点については記載が無かったように思う。今回はこの点について、ふとまとめて・締めくくっておきたくなったので書いてみよう。今回を以って「アナリストJobの変遷シリーズ」は終了としたい。


○中小型株特化型のヘッジファンドは、ライブドアショックを境目に凋落、リーマンショックが退潮の駄目押しに。同時期にクオンツ系ファンドも多くが痛手を被り淘汰。

さて、先般記載の通り、アクティビストファンドにせよ、そうでないヘッジファンドにせよ、セルサイドリサーチが手薄で割安放置されており、アルファが取れる要素があった中小型株に傾斜する事で2006年始めまでこう言ったファンド業界は成長を続けていたのであった。

この際、ショートセルについては借株市場側の流動性の制限等で中小型株は困難であった事から、自然とロングポジションが割安の中小型株中心になり、ショートは借株し易くValuationも高くなりがちな大型株、と言ったファンドが多かった。

また、HF第二世代(*)まではロングオンリーからHFに転向してきた例も多かった事もあるのだろう。ショートから入るのが苦手でロングから入る方が得意な運用者が多かったものと思われ、マーケットニュートラルではなくロングバイアスにしておくヘッジファンドが多かった。

(*因みに、筆者はヘッジファンド業界に居て恥ずかしながら、ヘッジファンド第一世代、第二世代、第三世代の明確な定義を完全に理解していない。ヘッジファンド第三世代=主に2000年代以降に業界に入った現在年齢30代位の不況世代・比較的若い層、第二世代=それ以前の世代、と言った理解ではいるのだが、特にヘッジファンド第一世代と同第二世代の定義の辺りが曖昧である。どなたかこの点ご存知のかたがいらしたら、メールかTwitterにでも一報頂けると幸いである。)

こう言ったファンドが2006年までは、中小型株の良好なパフォーマンスと共に拡大傾向にあった。
アクティビストファンドの栄枯盛衰の際も説明したが、パフォーマンスの良さから年金基金等からどんどん資金流入があった。往時は日本株の中小型株に強みを持つファンドで1000億円以上、中には3000億円内外を運用するヘッジファンドもあったのである。

この間、アクティビストファンドにせよ中小型株特化型のヘッジファンドにせよ、中小型株運用者のパフォーマンスが良い→そう言ったファンドに資金が流入→更に中小型株が買われる、と言った、言わばソロスの言うReflexivityの自己強化サイクルに入っていたようにも思われる。当時を振り返ると、ビジネスモデル等ニッチで魅力的で、PERが安めの中小型株を買い推奨しておけば大体オッケー、ネタ的に面白いキャタリストがあれば買いでもうばっちり、と言ったイージーな状況が続いていたようにも思う。アナリストもこう言った企業に取材に行き、買い推奨をマッチポンプのように行うだけで商売が成立する、と言う時期にあったのである。

これが2006年にライブドアショック、村上代表逮捕と言った「中小型株崩壊ショック」が起きると、一気に逆回転を開始し始めたのである。そして2007年のクオンツショック、2008年のリーマンショックで駄目押しとなった。

この間、流動性が相対的に低い中小型株は経済ショックの際等には特に一気に流動性が干上がってしまい、売るに売れない状況となった。その中で相次ぐファンド解約が起き、マーケットインパクトをかけて安値で売却を余儀なくされる事になった。そして中小型株のパフォーマンスが益々悪化してゆくと言う、バブル&バーストのバースト側の状況となった。先般解説したアクティビストファンドに加え、中小型株特化型のヘッジファンドの多くがこのような形で退潮を余儀なくされ、この分野の運用者・アナリストも多くが淘汰されていったのである。

またこの時期に、クオンツファンド・運用者・アナリストも恐らく少なからずが淘汰されたものと思われる。2007年8月に起きたクオンツショックで、過去安定して効き続けて居たバリューファクターが一気に反転して効かなくなったのである。クオンツファンドの問題として、「皆同じ市場データを分析・最適化して似たような運用手法を取った結果、皆同じようなポジションを取っていたと思われる」と言う点があったものと思われる。また、上記の中小型特化ヘッジファンド同様、パフォーマンスが良い→運用資金が集まる→更にバリューファクターを中心した”クオンツ好きする銘柄群”に資金が集中→パフォーマンスが上がる、と言うバブル過程があり、それがバーストしたと言う面もあるだろう。

その後、(特に株式運用の)クオンツ業界では、長らく苦悩と混迷、煮詰まりの時期を迎えているようにも思われるのである。


○その後、トレーダー型運用者、ヘッジファンド第三世代が生き残る事に。
さて、上記のような一連の経済危機とそれに伴う中小型株の流動性枯渇ショックを切り抜けたのは、筆者の見る限りでは以下の2タイプである。

・流動性の高い市場で比較的厳格なリスクモニタリング等と共に比較的短期のトレードを繰り返す「トレーダー型」。

・2000年代中頃の中小型株ヘッジファンドブームによりヘッジファンドでのキャリアが転職市場においても比較的一般的なものとなり、その結果キャリアの比較的序盤からヘッジファンドで勤務し始め、その中で長らく続く不況と下げ相場に適応し、ショートセルから入る事に躊躇がない比較的若手の「ヘッジファンド第三世代」。

上記のタイプの特徴としては、下げ相場にも対応できる事、流動性リスクを取る事でアルファを取る事を志向するのではなく流動性のある市場でプレイする中でアルファ獲得を志向する事である。こう言った特性が、リーマンショック、ギリシャ危機等一連のショックを乗り切る上で重要な役割を果たしたものと思われる。彼らは運用技能を洗練させ、生き残りを図っていった。結果として彼らの時代が続くのかと思われた。

しかし相場が怖くも面白いのは、あるトレードスタイルがしばらく隆盛して成熟の感を迎えると共にその流れは終了し、次の波が起こる事である。


○そしてアベノミクス相場の到来。今後も生き残るのは「全天候・カメレオン型」「幸運型」か。

そんな訳で2012年の12月以降の「アベノミクス相場」を迎える事となり、久しぶりに大相場となった。

アベノミクス関連銘柄、黒田金融緩和等で恩恵を受けると見られた新興不動産銘柄等の懐かしい面々、バイオ関連銘柄等の中小型株が長らくの時を経て活況を呈する事となった。ガンホー3765と言った巨大ホームラン級の銘柄も登場した。再び、2004-2005年頃を彷彿とさせるように、個人投資家の武勇伝や自慢話が増える相場となった。

この間、上記のような不況慣れしていた「トレーダー型」「第三世代型」は、波に乗り遅れたり、波から降りるのが早すぎたりする傾向にあった。一方で、中小型株バブル、更にはその前のITバブルや80年代のバブルを知っておりかつリーマンショック等を何らかの形で生き残って来た古参の運用者が再度活躍する事となった。

しかし、2013年8月現在では、アベノミクスによる一本調子の上昇相場、ボーナス相場も少なくともいったんは終わったのかなと言った印象である。

こう言った激動のマーケット環境の中で一貫して現在生き残っていて、今後も生存可能なのは、上げ相場でも下げ相場でもリターンがプラスで、大型株でも小型株でもアルファが取れ、リサーチでもトレードでもアルファが取れ、短期でも長期でも勝てて、ロングでもショートでも取れる、と言ういわゆる「全天候型」「カメレオン型」とでも言った所であろうか。

後はリーマンショック等の前後でも無我夢中でやったら理由は良く分からないが何とか僅少の損ないしはプラスで上がれたとか、リストラ局面でも運良くリストラを逃れたりリストラされても転職先にありついてキャリアを継続出来た、理解のある顧客が居て最後のところで解約ラッシュを踏みとどまる事が出来運用継続出来た、と言ったとにかく運が良い「幸運型」であろうか(*)。

勿論「全天候・カメレオン型」と「幸運型」の複合あわせ技と言ったケースもあるだろう。

(*注:因みに運を用いて運用なので、運が良い事は重要なスキルの一つである。ドラクエ3のステータスに「うんのよさ」と言うのがあり、「遊び人」の職業がそれが異様に高く、悟りの書を取得する以外の手段で賢者になれるのは「Lv.20以上の遊び人」だけだった事を思い出して欲しい。運の良さは力であり、Lv.20になるまで運の良さで生き残れる継続的な運の良さは知恵に繋がるのである。日本の誇る名経営者、松下幸之助氏も、「運が良い人でしたか、悪い人でしたか?」と面接者に聞いて、私は運が良いと答えた人を採用していたと言うではないか。運は重要である。筆者も幸運であるように心がけているし、運の良い人・良さそうな人と一緒に仕事をしたいものである。)

もはやこう言ったレベルはかなりハイレベルな「奇人・変人」の域であり、若手が新規参入するには結構難易度の高い商売になってしまったような気もする。


○終わりに。

さて、主にバイサイド・ヘッジファンドを主眼にして記載した、概ねここ10年ちょっと位の日本株回りのアナリストJobの変遷はこんな所だろうか。

こうして一通り書いてみてふと思う事がある。昔は外資系金融業界なりヘッジファンド業界と言えば、比較的大らか・大雑把でベンチャースピリットに溢れ、ちょっといい加減でもやる気とリスクテイクする気合があれば何とかなる、競争的にせよ業界として成長段階にもあったため仮にリストラされても次の職場も比較的直ぐに見つかる、と言った具合で比較的牧歌的な面もあった業界だったように思うのである。

なのに気づいてみたら、こんなにストイックな修行僧のような業界になってしまったと言うか、何と言うか。これが経営学・戦略論で言う所の産業ライフサイクルの成長段階から成熟段階に到達すると言う事なのだろうかなとも思う。

筆者はそんな厳しい世界で働きたいと思った事は元来無かった(これは魂の叫びに近いものがあるな・笑)。楽に儲けられるのであればそれが勿論良い。しかし気が付いたらこの業界にどっぷり漬かっている。特段何かの分野で能力値がずば抜けて高い訳でもなく、生来のギャンブラー的才能等が元から備わっている訳でもなく、なぜ生き残っているのかも不思議である。自身なりに上記のような変化に適応出来るように芸風と言うか持ちネタと言うかを広げるよう努力して来た面もあるにはあるが、運の要素もかなり強いと思う。しかしまあこれもご縁なのかなと思いながら感謝して現在仕事をしている。

今後も金融業界、運用業界、ヘッジファンド業界はめまぐるしく変わって行くだろうし、それに適応出来た者と運の良い者だけが生き残るのだろう。筆者としては弊業界に所属する末席の一員として、そろそろ産業ライフサイクルで言う所の衰退段階を経て残存者メリットなど効いて来る事を祈りたい気もするが、余り他力本願でもいかんな等と思いつつ、今日も窓際で茶など啜りながら運用業に励むこの頃なのであった。そして、うんめでたしめでたし(?)、よくまとめました、とボランティアでこう言った記事を書いている自身に取り敢えず自己満足しておくのであった。

…と言う感じで、こんな所だろうか。筆者の個人的な経験・実感を中心に走り書きの備忘録程度に記載しているため、やや偏り・誤り・省略や簡略化等はあるかも知れないものの、これが筆者が運用業界、ヘッジファンド業界に従事する中で目撃した、10年ちょっと位の主に日本のバイサイドアナリスト稼業・ヘッジファンド稼業の変遷である。大した参考になるとは思わないが、業界経験の浅い若手等が読めば、2000年代の金融業界史・バイサイド・ヘッジファンド業界史として「へえー」な気分で読めるかも知れない。そう言った形で多少なりとも参考になれば幸いである。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 30

Trending Articles